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みの強度を保ちながら、5056の弱点である応力腐食割れと加工性を向上させた材料である。後のことだが、5056なみのMgを含む材料を使ったビルマ海軍の英国製魚雷艇が、プロペラ上の外板に激しい応力腐食を発生した例がある。
米国では、5083は応力腐食の恐れがあるとして、舶用にはMgの少ない、当然強度も多少低い5086を推奨している。Mgを5083の規格値一杯まで入ると応力腐食の恐れがあるが、我が国では5083を最初から特に高速艇船体用合金として開発してきた関係から、製造上、応力腐食に対し十分に注意して、Mg含有量を制限して安全な製品を生産している。
昭和28年度防衛予算に魚雷艇6隻の建造が含まれると、三菱造船下関造船所がこの神鋼長府の材料を使った魚雷艇を実現するよう強く各方面に働きかけた。船舶用軽金属委員会は、高速艇委員会を設け、この艇の構造・工作の研究を開始した。
第2次大戦中の英国海軍の魚雷艇設計主務者が「我々はごく部分的にしか記入されていない海図を持って航海に出たようなものだった」と言っているように、当時は高速艇の受ける波浪外力に関しては技術資料がほとんどなかった。
戦時中の使用実績によって補強を重ね、ようやく信頼性の高い構造となった米英の木造魚雷艇の構造は多少分かってはいたが、木構造独特の継手の不確実さから、工作しだいで継手効率が相違するため、木造艇の実績から外力を逆算することは困難であった。1日海軍が戦争中に建造した鋼製魚雷艇の図面は一部残っていたが、不安定なエンジン性能に対応するのが精一杯で、十分な波浪中の使用実績は得られていない。
一方、工作についても、溶接をどの範囲まで採用できるか、溶接ひずみにはどのように対処すべきか、溶接に適する構造はどのようなものか等々、テストピースによる研究では解決できない問題が数々あった。したがって、机上の研究はたちまち行詰まり、何とかして適当な大きさの艇を建造して問題を洗い出し、その成果の上に立って魚雷艇の設計建造に進んで行きたい、と考えるようになった。
たまたま、海上保安庁に15m型巡視艇の建造計画があり、もちろん予算は木造船のものであったが、これをアルミニウム合金製として開発を進めることが計画された。これが実現したのは多大の負担を覚悟で建造を引き受けた三菱造船下関造船所(現、三菱重工業・下関造船所)と、技術的に未知数のものを大局的見地から実用艇として採用に踏み切った海上保安庁の決断による。防衛庁技術研究所からも、軽合金構造研究のため、可能なかぎりの金額で下関造船所に委託研究を発注した。
運転期間中に耐波試験を行い、波浪衝撃外力、各部の応力及びその時の波浪そのものを計測し、初めてこの種の艇の構造設計の基礎資料を得た。
これを手初めとして防衛庁の魚雷艇・高速救命艇の新型を建造するごとに耐波試験を行い、それらの計測の積み重ねによって、高速艇構造設計の基準が固まって行った。
このとき建造された海上保安庁15m型巡視艇が「あらかぜ」である。それまでに建造された木造の同種艇や、旧海軍の鋼製魚雷艇、少し前に建造されたタイ国向け鋼製パトロールボートなど

 

 

 

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